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長崎家庭裁判所佐世保支部 平成5年(少ロ)1号 決定

本人 N・Y(昭4712.30生)

主文

本人に対し金24万5000円を交付する。

理由

1  当裁判所は、平成5年5月26日、本人に対する平成4年(少ハ)第1号事件において、当裁判所が本人に対する平成4年(少)第345号、第369号、第370号事件(住居侵入、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺保護事件)について、平成4年9月14日なした保護観察決定を、これらの送致事実はいずれも認めることができないとして取り消す旨の決定をなした。

同保護事件の記録によれば、本人は、上記送致事実のうち、窃盗保護事件(第345事件の一部)で平成4年8月11日逮捕、続いて同月13日から21日まで勾留され、さらに、同窃盗事件と住居侵入事件(第345号事件)が当庁に送致された同月21日観護措置決定を受けて長崎少年鑑別所に収容され、審判期日である同年9月14日に同鑑別所を退所したこと、したがって、通算35日間身体を拘束されたことが認められる。

2  そして、身体拘束の基礎となった送致事実は勿論のこと、同事件に併合して審判に付された他の送致事実もすべて認めることができないとして保護観察決定が取り消されたこと叙上のとおりであるから、まず、本人に対する補償の要否について検討するに、上記各事件記録によれば、本人は、逮捕当日の平成4年8月11日午前7時30分ころ本人の姉宅から佐世保警察署に任意同行されて取調べを受け、当初は犯行を否認していたが、同日午前11時ころ行なわれたいわゆる面通し等で本人が犯人であるとされたこと等から、いくら犯行を否認しても身柄拘束を逃れることは困難であり、この際は、犯行を認めたほうが早期に身柄拘束から解放されると考え、同日午後5時ころ遂に犯行を自白し、その後の同日午後8時通常逮捕されたが、以来、捜査機関による取調段階、勾留質問段階、鑑別所収容中のみならず、審判時においてさえも叙上のすべての犯行を認めていたことが認められる。この点につき、本人は、「一旦自白したものを、改めて否認することは、却って問題を複雑にさせ、身柄拘束が長引くかと思った。自分が犯行を認めてさえいれば、すべてうまく解決できると思った。」と述懐しているのであるが、任意同行されてから自白に至るまでに9時間以上経過していること、その間に目撃者等が本人が犯人に間違いない旨述べていること等を考慮すれば、本人が右のように考え自白するに至ったことを目して、少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「法」という。)3条各号に規定する事由があると認めることはできない。したがって、本人に対しては、法2条2項により、身柄拘束日数35日につき補償すべきである。

3  そこで、さらに、補償金額について検討するに、叙上自白に至った経緯、取調べの回数等を勘案すれば、本人が、叙上の身柄拘束により、著しい精神的苦痛を被ったことは推測に難くなく、また、当時、本人は専門学校生であって、上記身柄拘束により、就職活動や自動車免許の取得に影響を及ぼしたことが認められるが、結局、希望した会社には就職できたこと、叙上のように自白をし続けたことに対しては、毅然たる態度をとるべきだったと反省し、これを今後の生活に生かしていきたいとまで考えるに至っていること、その他、本人の年令、身柄拘束期間等本件に現われたー切の事情を総合すれば、本人に対し1日7000円の割合による補償をするのが相当である。

4  よって、本人に対し、補償金24万5000円を交付することとし、法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 萱嶋正之)

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